プロダクトに最適なUIデザインを適用するためには、ユーザーのことを考えたUIデザインを作成するだけでは不十分です。
作成したUIデザインが実際にプロジェクトに採用されるためには、関係者(プロジェクトメンバーやステークホルダー)にそのUIデザインが適切であると認められる必要があります。
つまり、優れたUIデザインを作るだけでなく、それを周囲に納得させる説得力も求められるのです。
説得力は今後のプロジェクトでも役立つスキル
もし、言わなくても意図が伝わるプロジェクトメンバーやステークホルダーに恵まれているなら、現時点ではこのスキルは必要ないかもしれません。
しかし、これからも常に同じ環境で仕事ができる保証はありません。
業界やプロジェクト環境は常に変化しており、説得力を持ってUIデザインを提案するスキルは、決して無駄になることはないでしょう。
この記事で解説すること
改めてになりますが、プロジェクトメンバーやステークホルダーに納得してもらい、実際に役立つUIデザインを提供するためには、UIデザインそのものの説得力が重要です。
しかし、UIデザインを提案する際に、どのように説明すればその説得力を高めることができるのでしょうか?
この記事では、プロジェクトに説得力のあるUIデザインを提案するための具体的な準備方法とそのアプローチについて解説します。
UIデザイナーとして、プロジェクトメンバーやステークホルダーに納得感を与えるUIデザインを作り上げるためのステップを踏みながら、成功につながるUIデザイン案を提案する方法を考えていきましょう。
この記事は次のような人におすすめ!
- デザイナーとしてプロジェクトで説得力のあるUIデザインを提案したい人
- UIデザインの根拠をクライアントやチームに納得してもらいたい人
- UI/UXをさらに高める具体的なヒントがほしい人
1. 課題を整理する
UIデザインを作成することになったからといって、すぐにFigmaやAdobeを開いてデザイン作成を始めるのは早計です。
まずは準備を行い、課題を明確にすることが重要です。
課題を明確にする
「どのような課題を解決するためにUIデザインを行うのか」を最初に明確にしましょう。
課題を明確にすることは、プロジェクトメンバー全員が同じゴールを共有するために欠かせません。
課題の認識がずれてしまうと、レビューでの指摘内容もずれ、結果的にプロジェクト全体の方向性がぶれてしまいます。
そのため、全員の向かうゴールを明確にするために、最初に課題を定義しましょう。
課題を分解する
課題を明確にしたら、次は具体的な作業に落とし込むために考えるべき課題を最小単位まで分解します。
複数の課題を一度に解決しようとすると、考えが煩雑になり、UIデザイン案も複雑化してしまいます。
結果として、自分の考えをまとめるのに時間がかかり、プロジェクトメンバーに提案する際も理解に時間がかかることがあります。
例えば、AとBという2つの課題があった場合、以下のような進め方が考えられます:
- 課題を同時に検討するパターン
AとB両方の課題を一度に解決するUI案を作成し、提案・決定する - 課題を個別に検討するパターン
Aの課題を解決するUI案を作成し、提案・決定する
Bの課題を解決するUI案を作成し、提案・決定する
2つ目のパターンはやることが多く感じるかもしれませんが、実際には1つ目のパターンの方が意見が紛糾し、時間内に決定できない可能性が高いです。
具体的な例を挙げてみましょう。
課題例:リンクテキストがあまり押されない
仮説 :・リンクテキストが目立たないのではないか
・リンクテキストの文言が伝わりづらいのではないか
解決案:・リンクテキストをボタンにして、テキストの文言を変更
・リンクテキストの位置を変更し、テキストの文言を変更
・リンクテキストをボタンにし、位置も変える
このように、課題自体は小さくても、数が増えることで複雑化し、多くの複合的な解決案が浮かび上がります。
ただ、課題の規模や制約が明確であれば、1つ目のパターンを採用しても問題ありません。
例えば、文言が「xxxx」か「⚪︎⚪︎⚪︎」の2種類だけであれば、意見の紛糾は抑えられます。
プロジェクトでの決定においてもそうですが、自身でUIを検討する際にも、課題を分解して考えることは有効です。
最小単位とは
課題を最小単位まで分解するとは、具体的にはどれくらいの単位を指すのでしょうか。
それは、案を発散する上で大きな依存をしない最小の単位です。
例えば、先ほどのリンクテキストの例では、以下のような最小単位を考えます。
- リンクはどこに配置するか
- ボタンにするか、テキストリンクにするか
- テキスト文言は何にするか
これらを一度に決めるのではなく、個別に案を発散させて考えることが重要です。
例えば、リンクの位置を決めた後にボタンかテキストかを決定するのではなく、各要素を別々に検討し、最終的に組み合わせを決定します。
もし、どこか決められない要素があり、果てしなく案を発散させなくてはならないような要件がある場合、その要素を最初にプロジェクトメンバーと相談して決定しましょう。
そうしないと、案を発散させ続けることになり、労力や時間が無駄にかかってしまいます。
課題を分解して、それぞれに対して解決策を考え、段階的に解決していくことで、UIデザインを決定する最短ルートを辿ることができます。
また、これによりどの順番で決めるべきか、先に決めるべき要素は何かも明確になります。
2. 調査を行い基盤を固める
UIデザインを進める際、課題を分解した後には「何を基にしているか」が説得力を持つ重要なポイントとなります。
具体的なデザインを作成する前に、以下の要素をしっかりと調査し、基盤を固めることが大切です。
課題が複数ある場合は、それぞれに対して調査を行う必要があります。
競合や一般的なUIデザインの理解
競合となるプロダクトやサービスのUIデザインを調査することで、同じユーザー層やユースケースにおけるデザインの傾向や、ユーザーがどのような操作を期待しているのかを掴むことができます。
競合のUIデザインの挙動を理解することは、より優れたデザインを提案するための材料になります。
場合によっては、意図的に「ルールを外す」こともあります。このような場合でも、「あえて外している」という意識を持ちながらデザインを進めることが重要です。競合調査を行うことで、ルールを外す根拠を明確にし、その決定が意図的なものであることをプロジェクトメンバーに伝えやすくなります。
もし、作成しようとしているUIデザインに、一般的なUIデザインや競合において全く同じものが見つからない場合は、抽象度を上げて調査を行いましょう。
例えば、ボタンを押したら一部の情報が選択される挙動について、他のサービスでどのように実装されているかを調査します。
サービスとしてはショッピングサイトだとしても、UIの挙動に関しては、メールサービスなど他の分野から参考にすることも有効です。
UIデザインにおいては、サービスの競合に限定せず調査を行うことが大切です。
ユースケースを考慮する
UIデザインを作成する際には、ユーザーの利用方法を最優先に考える必要があります。
単純に見た目や機能が多すぎるから画面を分ける、という理由でデザインを決定することは避けましょう。
ユーザーがどのような状況で、どんな目的でこのUIを使用するのかを深く理解し、そのニーズに応じたデザインを提供することが求められます。
もちろん、すべてのユースケースを完全に理解してデザインを作成することは現実的ではありません。
そのため、限られた時間の中でできるだけの調査を行い、確度の高い仮説を立ててUIデザインを進めることが大切です。
既存や関連プロダクトのUIデザインを踏襲する
既存のプロダクトやサービスがある場合、そのデザインルールを踏襲することが基本です。
また、関連するプロダクトやサービスのUIデザインも参考にすることで、ユーザーにとって一貫性のある、親しんだ体験を提供できます。
「統一感を持たせる」ことは、ユーザーに安心感を与え、プロジェクトの提案に対して説得力を高めます。
ただし、統一性を保つべきかどうかは状況によるため、関連システムがどのように設計されているかを理解した上で、自身のUIデザインに適用できる部分を見極めることが大切です。
3. UIデザインを作成する
ここまで準備が整ったら、次に作成するUIデザインの案を思い浮かべてみましょう。この段階では、まず絞り込まずにとにかくアイデアを発散させることが重要です。
UIデザイン案を決める際には、複数の案を比較・検討することが重要です。
1つだけでは視野が狭まり、柔軟な発想ができなくなります。
これはないな、と思うUIデザインであったとしても、比較検討したということが大切です。
案を作成する段階では、最終形にする必要はないため、多少の余白のズレなどは許容して作成しますので、時間はそこまでかけないようにしてください。
デザイン案を広げることで、思いもよらなかった解決策が見つかることがあります。案の収束は、次の段階で行いますので、まずは多くのアイデアを出してみてください。
4. UIデザイン案を収束させる
多くの選択肢を出すことは重要ですが、最終的なUIデザインに説得力を持たせるためには、選んだ案をしっかり収束させる必要があります。
ここでは、複数出た案の中から最も効果的なUIデザインを選ぶためのアプローチを解説します。
メリット・デメリットを洗い出す
まずはそれぞれの案のメリットとデメリットを整理しましょう。この作業によって、どの案が最も効果的で適切かを客観的に判断する材料が得られます。
注意すべき点は、自分が進めたい案を選びたいあまり、デメリットを省略しないことです。
プロジェクトメンバーが「記載されていないデメリット」に気づくと、しっかり検証されていないという印象を与えてしまいます。
信頼性を保つためには、メリットとデメリットを網羅的に書くことが重要です。
調査で行なった、以下の軸を参考にメリットデメリットを出してください。
- 競合や一般的なUIデザイン
- ユースケース
- 既存や関連プロダクトとの統一性
この他にも、具体的なUIデザインを作成したことによって出てくるメリットデメリットはあると思います。
ここでの注意点は、他の分野の視点を入れないことです。
「開発コストが高い」などは、開発を担当していない場合は正確には測れないものです。
あくまで、ユーザー視点に立って、UIデザイナーとしてメリットデメリットを出してください。
また、洗い出しながら判断するのではなく、まずは洗い出しをすることに集中してください。
判断は、この後に行います。
クリティカルなデメリットのある案を排除する
どんなデザイン案にも必ず何かしらのデメリットはあります。しかし、クリティカルなデメリット、つまりプロジェクトの成功に深刻な影響を与える問題を抱えた案は避けるべきです。
例えば、最初に定義した課題を解決できない、ユーザーの目標を達成できないなどはクリティカルなため、案としては排除してください。
案を排除する場合、その案は残しておくようにしましょう。
プロジェクトへ共有した際に、「こういう案もある」という指摘を受けることがあります。
その際に、もう考えていた案であれば「このような案を考えましたが、ユーザーニーズに沿ぐわないため、不採用としました」と説明ができるためです。
最終案を絞り込んで提案する
複数の案を比較し、クリティカルなデメリットを排除した後は、最も効果的だと思われる案を最終案として絞り込みます。この時、案の数は3つ±1つ程度に留めるのが理想です。
もし案が5つになると、プロジェクトメンバーは理解するのに時間がかかり、絞り込みができていない印象を与えてしまいます。逆に案が1つだけだと、「他にも考慮すべき選択肢があったのでは?」といった疑念が生まれる可能性もあります。
最終的にデザイン案を決定するプロセスでは、自分の意見を押し通すのではなく、ユーザーやプロジェクトのニーズに基づいて最適な案を選ぶことが意識してください。
5. プロジェクトに提案する
デザイン案が決まったら、その案をプロジェクトチームや関係者に提案します。
単にデザインを提示するだけではなく、なぜそのデザインを選んだのか、どのように役立つのかを明確に伝えることが重要です。
これによって、納得感を得やすくなり、案がスムーズに進んでいきます。ここでは、効果的な提案方法について解説します。
課題をおさらいする
まずは、プロジェクトメンバー全員が同じ認識を持っているか確認するためにも、課題をおさらいしましょう。参加者全員が同じゴールに向かっていることを確認することは、提案の意義を伝えるために非常に重要です。たとえ自明であったとしても、この確認はプロジェクトを円滑に進めるための助けになります。
もし、課題の認識にズレがあることが判明した場合、提案した案が大きく変わる可能性があれば、レビュー会を中止し、別の時間に設定し直すことも検討しましょう。無駄な会議を避けるために、参加者の時間を大切にすることが重要です。その場合は、素直に謝り、改めて時間を調整する旨を伝えて解散しましょう。
課題の認識に多少ズレがあっても、提案した案にクリティカルな影響がない場合はそのまま進めるのがベストです。この判断は難しい場合もありますが、どうしても悩んだらプロジェクトメンバーに素直に相談し、今後進めていくべきかを話し合うことをお勧めします。
理由を持って説明する
UIデザイン案を提案する際には、その案を作成した理由をしっかりと伝えましょう。「なぜこのデザインが最適なのか」を明確に説明することで、プロジェクトメンバーや関係者の納得を得やすくなります。
理由を伝える際には、以下の軸を参考にすると効果的です:
- 競合や一般的なUIデザイン: 他のサービスや競合製品と比較して、なぜこのデザインが適しているか
- ユースケース: 具体的な使用シーンやユーザーの行動に基づいた理由
- 既存や関連プロダクトとの統一性: 既存のデザインガイドラインやブランドにどのように適応しているか
これらの視点から理由を説明すると、提案の信頼性が高まり、納得感を得やすくなります。
フィードバックを受け入れる
提案後に指摘を受けた場合は、素直に受け入れることが重要です。「なるほど、その視点は抜けていました。ありがとうございます。」と感謝の気持ちを伝えることで、相手にポジティブな印象を与えられます。
もし指摘が間違っていると感じた場合は、その場で丁寧に伝えることも大切です。対話の中で意見を交換することは、より良いデザインへと導くための貴重なステップです。
また、今後似たようなUIデザインを作成する機会があれば、今回のフィードバックを反映させるようにしましょう。同じ指摘を繰り返し受けていると、学ばない印象を与えてしまい、信頼性が低くなる可能性があります。
最も大切なのは、自分の案を押し通すことではなく、ユーザーにとって最適なUIデザインを作り上げることです。自分の案が否定された場合でも、それがユーザーにとってより良いUIデザインにブラッシュアップされるプロセスであることを理解し、前向きな姿勢で提案を続けましょう。
6. フィードバックを修正し、最終決定する
フィードバックを受けた内容はすべてログとして残し、適切に対応していきます。修正を行う際は、どのステップから戻るべきかを考えながら進めます。
- 課題分解からやり直す場合: フィードバックの内容が根本的な課題に関わるものであれば、最初の課題分解からやり直す必要があります
- 調査からやり直す場合: もし、調査段階で新たな情報や視点が必要な場合は、調査を再実施します
- UIデザインの作成から進める場合: 細かな修正で特に大きな検討が不要な場合は、UIデザイン作成の段階から修正を行います
修正後は再度プロジェクトチームに共有します。フィードバックに対して行った修正内容は明確に伝え、対応しなかったフィードバックについては理由をしっかり説明します。
共有方法の判断
修正内容やその重要度に応じて、フィードバックの共有方法を決めましょう。
- 口頭での共有: 議論が必要な場合や、複数案が存在する場合は、口頭での共有が推奨されます。テキストでのやり取りでは齟齬が生じたり、決定に時間がかかる可能性があるためです
- Slackなどのテキスト共有: 単に修正を加えた場合や、修正を行わない理由が明確に記載されている場合は、Slackやメールなどのテキストコミュニケーションで共有しても問題ありません。テキストで十分に伝わる内容であれば、集まること自体がコストにならないよう、適切に判断します
決定の最終確認
最終的には、すべての修正が反映され、プロジェクトチームで合意を得られた時点でUIデザインが確定します。
決定が不明確になることがないよう、すべての関係者が「完了した」と確認できるようにしましょう。
まとめ
UIデザインをプロジェクトに提案し、成功に導くためには、単に魅力的なUIデザインを作成するだけでは不十分です。
最も重要なのは、作成したUIデザインに説得力を持たせ、その価値をプロジェクトメンバーやステークホルダーに理解してもらうことです。
この記事で紹介したステップを実践することで、UIデザインの提案力を高め、プロジェクトにおいてより良い結果を得ることができます。
課題整理から始め、調査とアイデア出しを繰り返しながら最適なUIデザイン案を作成することが鍵です。
さらに、そのUIデザイン案を提案する際には、根拠をしっかり説明し、フィードバックを受け入れながら改善していくことが重要です。
このプロセスを踏むことで、ユーザーやプロジェクト全体のニーズに合った、説得力のあるUIデザインを提供できるようになります。
UIデザインに対する理解と提案力を高め、今後のプロジェクトでも成功を収めましょう。