プロジェクト成功の鍵は、ユーザーの声を正確に理解し、チームで共有することにあります。そのために重要なのが「ユーザーインタビュー」です。
しかし、インタビューをただ実施するだけでは価値を最大化できません。特にデザイナーはユーザーのニーズを深掘りし、チームの意思決定に役立つ情報を引き出す役割を担います。この記事では、デザイナーがインタビューを効果的に活用するためのポイントを解説します。
1. インタビューの目的を言語化・可視化する
インタビューを「なんとなくユーザーの声を聞けば何か分かるだろう」と始めると、失敗しやすいです。目的が曖昧だと、集めた情報の活かし方も不明瞭になり、分析や報告でチームが混乱します。
そこでまず大切なのは、「何のためにインタビューを行うのか?」を明確にすることです。
目的の具体例
- サービスの仮説を検証する
- 現状のUIの使い勝手を確認する
- ペルソナ像や課題感などインサイトを深掘りする
これらは混ざりやすいため、ホワイトボードやドキュメントに「今回の目的」を一言で書き、見える化しましょう。
例:「今回の目的:新機能Aのコンセプトがユーザーに価値があるか検証する」
目的の補足情報
- インタビュー後に何を意思決定する材料にするのか(例:実装判断、改善案の優先度決定)
- どの職種にどんな影響がある情報を取りにいくのか(例:開発、営業、CSなど)
目的を共有することで、関係者全員の方向性が揃い、情報の精度と分析の納得感が向上します。
インタビューの目的を明確に言語化・可視化し、チーム全員が共通のゴールを持つことで、情報の精度と分析の納得感を高める。
2. 主導する
インタビューを実施する際、デザイナーは遠慮せず、むしろ率先して主導することが成功の鍵です。
ここでいう「主導」とは、「全部自分でやる」ことではなく、目的に沿った進行や設計をリードする姿勢を持つことを指します。
なぜなら、ユーザーの体験や感情を深く理解するには、観察・共感・構造化といったデザインスキルが不可欠であり、そこに長けているのは他でもないデザイナー自身だからです。
特に次のような場面で、デザイナーが主導権を持つことでチーム全体の理解度がグッと上がります。
- インタビューの目的や流れを整理する
- 質問設計を行い、仮説との対応を可視化する
- ユーザーの発言をその場で構造化して共有する
また、主導することで、他職種のメンバーが「ただ聞いているだけ」にならず、場の空気を作ることも可能です。
たとえば、「このタイミングで質問してもらえると助かります」など、ファシリテーションを意識することで、チーム全体が能動的にインタビューに関われるようになります。
ただし、「全部自分で抱える」必要はありません。準備段階で主導しつつも、インタビュー中や分析のフェーズではチームの視点を取り入れることで、偏りや見落としを防げます。
インタビューを単なる聞き取りから、チームで気づきを共有する場へ変える。
デザイナー主導でプロジェクト全体のインサイト獲得力を高める。
3. チームで全体の流れと検証ポイントを共有する
インタビューをスムーズに進め、成果を最大化するには、チーム全員が「全体の流れ」と「検証ポイント」を共通認識していることが重要です。
まず、インタビューのスケジュールや進行手順を共有し、誰がどのタイミングで何を担当するのかを明確にします。これにより、各メンバーが自分の役割を把握し、円滑な連携が可能になります。
次に、検証すべきポイントをチームで出し合い、優先順位を整理します。ここで明確になった「情報の軸」は、聞き逃しや解釈のブレを防ぐだけでなく、後の分析や意思決定の質も高めてくれます。
このように、準備段階からチーム全体で視点をそろえておくことで、インタビューそのものの深さや鋭さが大きく変わってきます。
全体の流れと検証ポイントをチームで共有し、共通認識を持つことでインタビューの質を向上させる。
4. 負荷を分散しつつ巻き込む
インタビューは、デザイナーだけで抱え込むと負担が大きくなりがちです。準備から実施、分析まで、多くの時間とエネルギーが必要なため、チームと協力しながら負荷をうまく分散させることが大切です。
とはいえ、ただ作業を振るのではなく、メンバーそれぞれの強みや関心を活かして巻き込むことがポイントです。たとえば:
- 開発メンバーには、技術的な観点からの質問を担当してもらう
- マーケや営業には、ユーザーに伝わる言葉になっているかのチェックを依頼する
- メモや録音の管理は、比較的手が空いているメンバーにお願いする
このように役割を分担することで、無理なくチーム全体で取り組める体制が整います。
また、「ただ手伝ってほしい」ではなく、参加する意義やメリットを伝えることも重要です。
「あなたの視点が必要だ」「これがプロジェクト成功のカギになる」と伝えることで、主体的な関わりを促せます。
さらに、準備段階から関わってもらうことで、分析や議論にも自然に参加しやすくなり、多様な視点によるより深いインサイトが得られるようになります。
インタビューはチームの宝探し。デザイナーがリーダーシップを取り、チームを巻き込むことで深く広い気づきを生み出す。
5. 録画・録音をして見返せるようにする
インタビューでは、リアルタイムですべての発言やニュアンスを記録・把握するのは難しいものです。
そのため、録画や録音をしておくことが非常に有効です。
録画・録音があれば、後から内容を何度も見返すことができ、細かな言葉遣いや表情、声のトーンといった非言語的な情報も確認可能になります。
これは、インサイトの精度を高め、チームで一次情報を共有するための土台になります。
録画・録音を活用するポイント
- 機材の準備とテストは事前に
トラブルがあると大事な情報を取り逃すリスクがあるため、環境チェックは必須です。 - 録音・録画の許可は必ず取る
目的を説明し、ユーザーの同意を得てから実施しましょう。プライバシーへの配慮は信頼構築にもつながります。 - 共有しやすい環境を整える
録画データはクラウドなどに保存し、チームメンバーがいつでもアクセスできるようにしておくと便利です。
録画・録音を活用することで、「あのときこう言ってた」という見落としていた気づきが拾いやすくなります。
また、参加できなかったメンバーとも情報をスムーズに共有できるため、理解の温度差を減らす効果も期待できます。
ユーザーの「生の声」は最大の宝。録画・録音はその宝を逃さず活かすための必須ツール。
6. 結果分析は、軸を提供
インタビューで得られた膨大な情報をチームで共有し、価値あるインサイトに変えるためには、分析の軸を用意し、結果を整理・提示することが重要です。
ただ「何となく良かった」「こう感じた」という感覚的なまとめではなく、誰が見ても理解しやすく、議論のベースになる軸を設けることで、チームの意思決定がスムーズになります。
分析に使える代表的な軸の例
- 効果(Effectiveness)
ユーザーが目的をどれだけ達成できているか - 効率(Efficiency)
目的達成に要した時間や労力の軽さ - 満足度(Satisfaction)
体験に対するユーザーの感情的な満足感
これらは、UXを評価する際の基本的な3つの観点として広く使われています。
さらに、UXの5段階モデル(Don Normanが提唱したモデルなど)を活用すると、体験の深掘りがしやすくなります。たとえば、
- 戦略レベル(Strategy) — ユーザーのニーズやビジネス目標
- 範囲レベル(Scope) — 機能やコンテンツの仕様
- 構造レベル(Structure) — ナビゲーションや情報設計
- 骨組みレベル(Skeleton) — インターフェースや配置
- 表層レベル(Surface) — ビジュアルデザインや感覚的要素
このような階層を意識して分析を整理すると、課題や改善ポイントが具体的に見えやすくなります。
分析軸を提示しながら結果を共有することで、チーム全員が同じ言葉・視点で議論でき、プロジェクトの意思決定が加速します。
デザイナーはこの「分析の軸作り」の役割を積極的に担うことで、インタビューの価値を最大化しましょう。
インタビューは「気づき」の宝庫。見える形で整理し、使える軸を提供することが成功のカギ。
7. インサイトを“伝わる形”に翻訳する
インタビューの結果から得られたインサイトは、そのままではチームに伝わりにくいことがあります。専門用語が多かったり、膨大な情報の中に埋もれてしまったりすると、せっかくの気づきも活かされません。
そこで、デザイナーの役割として重要なのが、「インサイトをわかりやすく、伝わる形に翻訳すること」です。
伝わる形に翻訳するポイント
- ストーリーにまとめる
単なる箇条書きではなく、ユーザーの体験の流れや感情の変化をストーリー仕立てにすると、共感を得やすくなります。 - ビジュアルを活用する
グラフやチャート、ユーザージャーニーマップ、ペルソナなどの図解を用いることで、抽象的な情報も具体的に伝わります。 - 具体的な事例やユーザーの言葉を引用する
「ユーザーは〇〇と言っていた」といった生の声は、説得力があり感情に訴えかけます。 - チームごとに響く切り口を意識する
開発チームには技術的な課題や改善ポイントを、マーケティングにはユーザーの心理やニーズを強調するなど、相手によって伝え方を変えるのも効果的です。
こうして「伝わる形」に翻訳されたインサイトは、単なる情報の共有に留まらず、具体的な改善アクションや次の施策への道筋を描く羅針盤となります。
インサイトは「宝の原石」。それをチーム全員が扱いやすい宝石に磨き上げるのがデザイナーの腕の見せどころ。
まとめ
プロジェクトにおいて、デザイナーがインタビューの力を最大限に発揮するには、単に情報を集めるだけでなく、チームの中心として主導権を握り、目的を明確にし、関係者を巻き込みながら進めることが不可欠です。
録画や録音で情報を正確に記録し、効果・効率・満足度といった分析の軸を示すことで、チーム全体が共通の理解を持てるよう橋渡しをします。
さらに、得られたインサイトをわかりやすく「伝わる形」に翻訳することで、デザイナーならではの視点と表現力で、チームの意思決定や改善を後押しする役割を果たします。
つまり、インタビューを通じてデザイナーが「情報の架け橋」となり、プロジェクトを成功へと導く存在になることこそが、本質的な力の発揮と言えるでしょう。

